1日のニューヨーク外国為替市場でドル円は、米3月雇用統計で失業率が3.6%へ低下したこと、米10年債利回りが一時2.45%台まで上昇したことで123.03円まで上昇した。ユーロドルは、米10年債利回りの上昇やレーンECB専務理事の発言「インフレ見通しが弱まれば、金融政策を再考」との発言を受けて1.1028ドルまで下落した。

 本日の東京外国為替市場のドル円は、日米金融政策の乖離を背景に底堅い展開が予想される。

 米国3月の失業率が3.6%と予想より強く、コロナ禍前の2020年2月3.5%以来の低水準を記録。これにより5月3-4日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.5%の利上げの可能性が高まっており、米10年債利回りは上昇基調が予想される。

 一方、日本銀行が、4-6月期の長期国債買い入れに関して、中長期ゾーンでは1回当たりの買い入れ予定額を前期に比べて増額し、超長期ゾーンは回数を増やしたことで、日本の10年国債利回りは0.25%を上限にして上昇は見込みづらい。日銀はインフレ目標2%の達成の手段として、10年債利回りを0.25%以下に抑え、超長期ゾーンは金利上昇を黙認する「イールドカーブコントロール」を行ってきた。しかし、今回の発表では、すべての期間の金利上昇を抑えるということが目的となり、迷走化が懸念される状況となっている。

 そして、黒田日銀総裁は、賃金の上昇を伴わないコストプッシュ型の物価上昇は景気に悪影響を及ぼすとして、2%の物価目標の持続的で安定的な実現にはつながらないとの見解を示している。4月の消費者物価指数は、携帯電話通信料の値下げ効果が剥落するため、前年比で2%台に乗せることがほぼ確実となっている。しかし、日銀は、賃金上昇を伴う持続的かつ安定的な物価上昇ではないことから、現状の金融緩和策を粘り強く続け、10年国債利回りの上昇も抑えていく公算が高い。

 黒田日銀総裁は、現状の円安は日本経済にプラスとの認識から、2015年6月の125円台での牽制ではなく、容認する姿勢を示している。円安により、輸出企業、製造業の収益が上がり、賃上げに繋がり、物価上昇に結び付くとのシナリオである。

 日銀が3月に調査した短観では、外患としてのウクライナでの戦争と原油価格の上昇、内憂としてのコロナに対する蔓延防止等重点措置により、景気判断を示す指数は、製造業、非製造業ともに悪化していた。さらに、6月の先行き判断も悪化が見込まれており、日銀は「円安はプラス」と判断しているものの、日本企業は必ずしもプラスと受け取っていない可能性が示された。

 調査期間の1-3月のドル円は、1月24日の安値113.47円から3月28日の高値125.09円まで11.62円上昇しており、今後も130円台に向けた上昇が予想されている。

 なお岸田首相は、今月末を目処に原油価格や物価の高騰に対応するため、当面の経済対策を盛り込んだ「総合緊急対策」を取りまとめるように指示。すなわち、黒田日銀は現状の物価上昇と円安を放置する構えだが、岸田政権は、物価上昇を抑える対策を打ち出し、かつ「為替について米国などと意思疎通を図りつつ適切に対応」すると述べ、異例なことに、米国と連携してドル高・円安に対応することを示唆している。

 日銀の粘り強い金融緩和策は、対外的には、欧米英などの金融政策の正常化路線と乖離し、対内的には、岸田政権の物価抑制と「悪い円安」への警戒感とも乖離している。